回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)の看護•介護10カ条って何のこと?と思われる看護師さんが多いのではないでしょうか。
私も回復期病棟に勤務するまで、全く聞いたことも勉強したこともありませんでした。
しかし回復期病棟で勤務し回復期リハビリ認定看護師になって看護•介護10カ条が、看護師・介護士にとっていかに重要な考え方であるかが分かります。
ひとつひとつの内容は難しいことではないのですが、業務に追われると当たり前のことができていなかったり、見失ったりしてしまいますが、看護•介護10カ条があることでよりよいケアを目指す指針になります。
この記事を読めば回復期病棟の看護•介護10カ条の内容や、看護•介護10カ条に込められた意味、回復期病棟で働く魅力が分かりますのでぜひ参考にしてください。
回復期病棟看護•介護10カ条は社会に向けて出した宣言!
回復期病棟看護•介護10カ条は看護職•介護職が、回復期病棟に入院される患者さんや家族に「私たちが提供するサービスやケア」を宣言するものです。
看護•介護10カ条は一般社団法人回復期リハビリテーション病棟協会がよりよい医療を目指す指針として掲げています。
看護•介護10カ条以外にも、セラピストやソーシャルワーカー、栄養士などの職種別10カ条を掲げています。
- 食事は食堂やデイルームに誘導し、経口摂取への取り組みを推進しよう
- 洗面は洗面所で朝夕、口腔ケアは毎食後実施しよう
- 排泄はトイレへ誘導し、オムツは極力使用しないようにしよう
- 入浴は週3回以上、必ず浴槽に入れるようにしよう
- 日中は普段着で過ごし、更衣は朝夕実施しよう
- 二次的合併症を予防し、安全対策を徹底し、可能な限り抑制は止めよう
- 他職種と情報の共有化を推進しよう
- リハ技術を習得し生活の場のケアに活かそう
- 家族へのケアと介護指導を徹底しよう
- 看護・介護計画を頻回に見直しリハプログラムに反映しよう
回復期病棟ではこの10カ条をスタッフの見える場所に掲示して日々の看護を実践しています。
一つずつ内容を説明しますね。
食事は食堂やデイルームに誘導し、経口摂取への取り組みを推進しよう
回復期病棟ではバイタルサインが安定していない場合や患者さんの疲労が強い場合を除き、可能な限り離床し食事摂取します。
食堂やデイルームといった空間で患者さん同士が集まって食事を取ります。経管栄養の患者さんもリクライニング車椅子などに座り離床して注入します。
リハビリでベッドから起き上がるのは拒否する患者さんも「食べるために起きる」という目的であれば受け入れる方も多いですよ。
1日3回の食事はデイルームに移動しますが、このタイミングは車椅子への移乗訓練や歩行訓練などリハビリにもなります。
患者さんの経口摂取が安定するよう他職種でアプローチしています。
看護師:食事中のバイタルサイン、食事摂取量、嚥下状態、義歯が合っているか
理学療法士:食事中の姿勢、机と車椅子や椅子の高さが合っているか
作業療法士:スプーンや箸、フォークの使い方、摂食動作
言語聴覚士:食事形態が合っているか、嚥下状態や咀嚼状態
栄養士:嗜好や食事量、食事形態など
それぞれの職種がアセスメントし、試行錯誤して経口摂取が安定するよう工夫します。経口摂取が進まない理由も患者さんそれぞれの理由があるため知恵を絞ります。
患者さんが退院後も安全に美味しく必要な量の食事が摂取できるよう、入院中から退院後の食事についての検討も欠かせません。
食事を家族が作る場合、病院とは違い家族が作りやすいようにミキサー食や刻み食などの指導も行います。
また、デイルームでの食事は周囲の患者さんたちと会話できるため楽しみになったり、「自分もあんな食事が食べたい!」などの良い刺激になったりしますよ。
デイルームで患者さん同士のお話を聞くと、わたしもほっこりします。
洗面は洗面所で朝夕、口腔ケアは毎食後実施しよう
急性期病棟では病状が安定しない患者さんが多いため、朝晩の洗面はタオルを提供することが多いですが回復期病棟ではタオルを渡すのは一部の患者さんのみで洗面所を使用するのが基本です。
口腔ケアをガーグルベースンで行うのは最低限にして、できるだけ洗面台に誘導し口腔ケアします。洗面台に誘導するのは歩行器や杖を使用している患者さんは付き添います。
また口腔ケア以外に男性の髭剃りや、女性の整髪など整容にも力を入れています。身だしなみの習慣をつけて退院後の生活に近づけることを意識しています。
排泄はトイレへ誘導し、オムツは極力使用しないようにしよう
排泄はできるだけ早期からトイレに誘導し、オムツをパンツに変更できるようアプローチします。
入院当初はバルンカテーテル挿入中であったり、テープ式オムツにパッド装着の患者さんであったりが多く、介助量も大きいためトイレ誘導が困難な場合が多いです。
まずは日中リハビリパンツに変更しトイレ誘導から開始しますが、介助量が大きい場合はセラピストと看護師の2人介助でスタートすることも多いですよ。
訓練がすすめば病棟でナース2人介助でトイレ誘導できるようになり、1人介助になり、見守りを経て自立する過程はとても嬉しいですね♪
多くの患者さんと家族が「トイレでの排泄」を目標にしているため、排泄自立が在宅復帰が叶うかどうかのポイント
退院後の生活でもバルンカテーテル管理や排泄介助が必要な場合、在宅でも患者さんや家族の生活に取り入れやすいケアを検討し、家族指導も行います。
入浴は週3回以上、必ず浴槽に入れるようにしよう
入浴を週3回以上、浴槽に入れるようにが目標に掲げて入浴介助しますが、マンパワーによって私が勤務していた病棟では週2回でした。
入院前はほとんどの患者さんは毎日入浴されていたので、退院後の生活を想定して入浴回数を確保しQOLの向上につなげます。
夏はリハビリして汗かくのに入浴が2回しかないなんてキツいです。
患者さんからこのような意見も多く、自立度が高い患者さんはセラピストに入浴動作の評価を依頼して一人でも入浴可能な場合は「一人でシャワー可」にしてもらいました。
日中は普段着で過ごし、更衣は朝夕実施しよう
回復期病棟では起床時と就寝時に更衣をおこない、日中はリハビリに適した衣類、夜間は寝衣で過ごします。
更衣するという動作は、起居動作・端座位・着脱動作・ボタンのつけ外しなどの巧緻動作・立ち上がり動作など複合的な動作の訓練ができます。
最初は面倒がっていた患者さんも継続することで次第に更衣するのが当たり前になっていきますよ。
患者さんが一人で更衣すると転倒するかもしれないので、更衣する時間帯を決めたり、服をどこに置いていくかなど個々に合わせた対応が必要です。
二次的合併症を予防し、安全対策を徹底し、可能な限り抑制は止めよう
寝たきりの状態や身体拘束された状態が持続すると、二次的合併症のリスクが高くなるため回復期病棟では離床と、身体拘束をできるだけ行わないよう介入します。
二次的合併症とは褥瘡・誤嚥性肺炎・尿路感染・静脈血栓・骨折・脱臼など
日中はできるだけ離床して活動するのが基本になります。認知症や意欲低下の患者さんはリハビリ時間以外は臥床傾向になりがちであるため、看護師は離床できるよう看護計画を立案します。
- 編み物
- 塗り絵
- デイルームでテレビ視聴
- youtube視聴
- 新聞
- 間食提供
- 将棋
- 足浴
患者さんが何か興味や好きなことが分かれば離床のきっかけを作りやすいので、ぜひ患者さんやご家族に聞いてみましょう♪
身体拘束はやむを得ない状態の際に選択する場合がありますが、回復期病棟でもできるかぎり身体拘束をしないよう取り組んでいます。
身体拘束とはミトン・抑制帯・車椅子の安全ベルト・ベッド4点柵や向精神薬服用・居室隔離やセンサーマット類などの行動制限
身体拘束されている患者さんには身体的・精神的悪影響があり、また身体抑制しているスタッフにも心理的悪影響があります。
車椅子ベルトされている認知症患者さんは、いつもベルトを切るためのハサミを探しています。
転倒や事故を防止するため、スタッフ不足で見守りができないから身体拘束をしている場合があるでしょう。
わたしたちは身体拘束が必要だと思い込んでいるかもしれませんが、身体拘束を解除するためにどうすればいいのかアセスメントを重ね試行錯誤すれば解除できるケースも多いのではないでしょうか?
身体拘束ゼロを掲げて取り組んでいる病院や施設などの事例を知るとヒントになりますよ!
他職種と情報の共有化を推進しよう
回復期病棟は他職種と連携し、アプローチする場面が多いため情報を共有し看護を実践することが重要です。
職種によって患者さんと関わる時間やタイミング、場面が違い得た情報の濃さや内容もそれぞれです。
治療や看護、リハビリや自宅復帰に向けて必要な情報は、カンファレンスや日々の業務のなかで他職種で共有し活用することが大切ですね。
看護師はベッドサイドにいる時間が長く、夜の患者さんの様子が分かりますし、セラピストは1時間じっくり患者さんのリハビリをするので患者さんのことをよく知っていますよ。
ソーシャルワーカーは患者さんの家族についてや、社会的資源についてとても詳しい情報を持っているので驚きます。
それぞれの職種がもっている情報を共有すればより患者さんの理解が深まりますよ。
回復期病棟ではコミュニケーション能力が高いのは強み
リハ技術を習得し生活の場のケアに活かそう
回復期病棟で患者さんは毎日3時間のリハビリと、残りの21時間は病棟で日常生活動作を通して動作能力の向上をはかります。
回復期病棟看護師がリハ技術にすぐれていれば、患者さんに最適な介入ができますよね♪
移乗動作や、歩行介助、起居動作、食事介助などは患者さんそれぞれに適した介助方法がありますが、病棟の看護師がそれぞれ異なる方法で介助すれば患者さんは混乱してしまいます。
患者さんの回復段階に合わせて最も適した介助ができるようセラピストと協働することがとても大切です。
たとえば介助量が大きく看護師が移乗する際に不安がある患者さんがいれば、担当セラピストに移乗方法をデモンストレーションしてもらうようかけ合います。
看護師はボディメカニクスを上手に活用できていない場合があり、腰痛のあるスタッフも多いのでセラピストにボディメカニクスを活用した移乗方法を教えてもらい意識すると身体への負担を減らせますよ。
家族へのケアと介護指導を徹底しよう
回復期看護師は入院時面談のときから家族と意識して関わり、こまめに入院中の生活やリハビリの様子などを伝えて信頼関係の構築につとめます。
退院後の生活は患者さんも家族にとっても不安を抱えやすく、在宅復帰目指すにあたって看護師は家族のサポートもあ欠かせません。
看護師やスタッフと家族との信頼関係が構築できていなければ、退院指導や退院後の生活の話し合いなどが円滑に進みません。
苦手なご家族でも避けるより、あえて患者さんの様子やリハビリの進捗状況など伝えていく方が信頼関係構築できた経験があります。
そして患者さんと家族が安心して在宅復帰できるよう、入院中に介護指導を十分に行えると良いでしょう。
家族が遠方であったり、介護者が高齢者であったりとサポートが弱い場合もあるため、他職種で連携して退院支援することが重要です。
看護・介護計画を頻回に見直しリハプログラムに反映しよう
担当看護師は看護計画を立案し、患者さんの個別性に合わせて定期的に評価や修正していきます。
患者さんの病状や回復段階、リハビリ状況に合わせて随時看護計画を見直していくことが大切ですよ。
看護計画に沿って介入すれば誰でも最適な看護が提供できるように修正・追加が大切です。
看護•介護10カ条に込められた意味
回復期リハビリテーション病棟では「寝たきり防止」「ADL拡大」「在宅復帰」を3本の柱にして、寝・食・排泄・清潔の分離をすることが重要であり、これを実現するために看護•介護10カ条を発信されました。
回復期病棟看護師は看護•介護10カ条の意味を理解し、当たり前に実践できることを目標としています。
看護•介護10カ条はとてもわかりやすく日々の看護実践の支えになります!
まとめ
回復期病棟看護•介護10カ条は看護職•介護職が、回復期病棟に入院される患者さんや家族に「私たちが提供するサービスやケア」を宣言しています。
人としての尊厳を守り、可能性に注目し、できる限りの自立をめざすことや、他職種でアプローチし、家族にもケアを提供するという重要なことが全て盛り込まれています。
スタッフ不足や業務多忙になって目の前の業務をこなすことに必死になってしまうこともありますが、看護•介護10カ条を意識することで我にかえることができました。
何のために誰のために私は看護しているのか?を忘れると良い看護も提供できませんし、やりがいも感じられなくなってしまいます。
看護•介護10カ条を日々意識して患者さん・家族と関われば質の良い看護が提供でき、患者さんや家族の望む退院後の生活に近づけると思います。
これから回復期病棟に転職を考えている看護師さんは、回復期病棟はこんな思いで患者さんや家族に看護や介護を提供しているんだという参考になれば幸いです。
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